「ほたる」





雨が降っていた。
ざあざあざあざあ、休む事なく銀の糸が空から降り注いで、冬場の乾燥した空気を湿らせてゆく。
透明な雫越しの景色の向こうに彼を見たのは、買い物を終わらせて戸を開けた時だった。
目立った色素を持つ髪なので、離れていても一目で彼だと判る。





「どうしたの、そんな所に突っ立って」





ほたるは今し方自分が出てきた甘味所の向かいの卸問屋の前に立っていた。
いつも通り焦点の合わない鋭い双眸に、滅多な事では変わりそうにない表情を携えて。
目的の人物を瞳に捉えると拱いていた腕を解いて、白い唇でその人の名を呼ぶ。





「灯」
「何やってんの。冷えるわよ、そんな薄着じゃ」
「何、って」





ぱっ。





「灯の事、迎えに来たんだけど」





色のない世界に、紅い花が咲いた。





「それに、灯の方がやばいんじゃないの。風邪ひきやすいんだからさ」
「あんたこそ…」
「俺は平気、割と丈夫だから。ほら」





くいと手を引かれ、ほたるの方へ引き寄せられた。
遠かった雨の打ちつける音が、一気に近くなった。





「帰るよ」





一方的だけれど、旅籠に着くまで繋いだほたるの手は、意外と温かかった。














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ぬるいほた灯。
灯は良いところ育ちで、身体が少々弱めなのです(脳内妄想)















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