陽も大分高くなった頃、予定通り灯に稽古をつけようと、離れの屋敷を訪れた。
灯の自室用にと宛がった部屋へ真っ直ぐに足を運ぶが、そこに小さな姿は見当たらなかった。
ぐるりと見渡してみても、目に映るのは去年と比べて随分と物が増えた一室だけ。
まただ。うんざりしたように、ひしぎは吐息をつく。
灯は最近、頻繁にいなくなる。
前日に部屋にいるようにと告げても、翌日には忽然と姿を消している。
ひしぎの云う事には絶対と云って良い程従う灯だが、それも季節を一回りすると徐々に稀有になってきた。





「No.13」





屋敷の近くの雑木林に靡く桃色を見つけ、歩み寄り、名を呼ぶ。
灯は首を擡げ、色素の薄い睫毛で飾られた紫暗にひしぎの姿を映した途端、ぱっと花が咲いたように笑う。





「こんな所で何をしているんです。私が来るまで部屋で待っているようにと、昨日云ったでしょう」
「ひしぎ様ー、あのね」





短いコンパスを懸命に伸ばしてこちらに駆けて来た。
少し泥のついた両手には、灰色の、何か。
遠目に見ると、毛玉のようにも思えた。
灯はすぐ目の前まで来ると足を止め、手に抱えた何かをずいと掲げて、一言。





「猫飼いたい!」





頬を上気させてひしぎを仰ぐ眼差しは、それはそれは期待に満ちていた。





―――目紛るしくころころと変わる表情に、眩暈がしそうだ。





目を伏せて、それから少し間を置いて、いつものように抑揚のない声で。





「手のかかる猫は、二匹もいりません」














--------------------



フォルダを漁ってたら出てきたので、折角だからあげてみました。
ファイル名が「webclap」になってた辺り、拍手にするつもりだったんだろうな…。
あまり面白味がなかったからあげなかったような記憶がうっすらあります。















SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送